無人島にひとつ持っていくなら?「ゴー☆ジャス」

一つ目のボトル

四月一五日
ゴー☆ジャスとの無人島生活が始まってから一週間が経ちました。既に毎日が同じ行為の繰り返しで日付感覚は奪われそうですが、木の幹に傷をつけるという(古典的な)方法で、経過日数だけは記録しています。今のところ毎日晴天です。
二人ともまだ気は確かです。
しかし、一週間経っても救助隊は来ませんし、青空を飛行機が横切ることさえ(少なくとも認識する範囲では)ありません。
ゴー☆ジャスは五日目までは「まだ助かる まだ助かる マダガスカル!」と馴染みのネタをやっていましたが、六日目にはすっかり黙りこくっていました。しかし今日の朝には「この状況はマジでヤバイ ヤバイ ドバイ!」と言っていたのでまだ意外と元気です。
私はといえば、初日から奇妙な高揚感があります。気がついたら宇宙海賊ゴー☆ジャス無人島に二人きりと言う非現実感のためかもしれませんが、いまだなくなりそうにありません。救助を待ち望んでいながらも、ここで数週間過ごしそのまま死んでもいいんじゃないかとさえ思えます。
ところで、こんな状況に陥った原因について、私はひとつ心当たりがあります。
以前、あるクラスメイトが私に「無人島にひとり連れてくならだれ? 」という質問をしてきました。特段仲良くもないクラスメイトにそんな三流バラエティばりのことを聞かれた私は驚きながらも、少し悩んで「宇宙海賊ゴー☆ジャス」と答えました。
「へぇー」と意外そうな返事をしただけで自席に戻っていく様子に対して、私は(理由くらい聞けよ)と思ったものです。しかし理由というのは、ゴー☆ジャスならば無人島にいながらも世界中に旅することが出来るあべこべが面白そう、というだけのものです。まさか、大して関わりのないクラスメイトがこのバカげた旅行を計画したとは思えませんが、こんなことになった今では「紗倉まな」とでも答えておくべきだったと後悔しています。
残りのボトルとそれに入っている手紙は二つきりです。いつ出すかは未定です。
マダガスカルとドバイの場所を示します。「そぉーれ!ココ!」私たちのいる島の場所は海洋さえ不明です。
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二つ目のボトル

五月一日
四月は何日間でしたか、30か31か。今日が五月の始まりなのか四月の終わりなのか、そもそも私たちがここに至った正確な日付は確認する方法がありませんでした。もう一ヶ月程度経ったことになりますか。
ゴー☆ジャスは気が狂いました。仕方がないと思います。私は向こうを知っていたけど、ゴー☆ジャスは私のことなど知らなかったでしょうし、仮に知っていてもだからどうしたと言うんです?私がテレビに出たのは小学生の時の街頭インタビューです。録画は忘れていました。くだらない。
ゴー☆ジャスは気が狂いました。肩に乗っていたオウム?インコかもしれませんが、それを焼いて食べようとしていました。それは燃えました、当然本物の鳥ではないわけですから。どうしても腹が減ったようでした。「腹の具合が パラグアイ」といまだにボケる余裕はあるようですが、非常におざなりで、生活始まり当初のような溌剌さは失われていました。それでも自然と口をついて出るのは職業病ですか。この様子だと2度と仕事はなさそうです。
ところで、前回の手紙に書くべきだったのですが、ゴー☆ジャスの白塗りはいつまで経っても落ちないようです、顔面蒼白ってわけじゃありませんよ。もしかしたら彼のギャグが一人の観客(つまり私)のために延々と繰り返されるのは呪いなのかもしれません。オカルトは興味ないのですが。一方で彼自身気づいているのかいないのか、自分の顔は鏡がないとみれません、あるいはここでは際限なく広がる水面を覗き込めば分かることですが、それでもゴー☆ジャスからはそのことを触れません、だから私も教えません。些細なことです。
一ヶ月、非常に長いものです。おおよそここで釣れる魚や、採れる果物などは経験し尽くし、新たな発見は望めそうにありません。無駄に生きながらえているだけでしょうか。
先にゴー☆ジャスのことを書きましたが、私は平気ですか?正気を失った人間と二人きりで最も怖いのが、自分の正気は保証されないということです。私は毎朝「いいスタートだ イースター島」とまじないを唱えます。無人島についた頃、ゴー☆ジャスから教わったものです、彼はもう唱えるのをやめました。
こんな手紙を書いてなんの意味がありましょうか、ボトルはどこへたどり着くのか、わかりません。ボトルはもう残り一つっきり、いつ出すでしょうか、いつ着くでしょうか、あるいは書かないかも。なんでもいいです、私は疲れました、疲労した、広島。くだらない。f:id:Dreaming-mange:20200515221849g:plainf:id:Dreaming-mange:20200515221908p:plainf:id:Dreaming-mange:20200515221922j:plain


三つ目のボトル

五月十五日
予定なんてなかったのですが、それでも予想よりも早く書くことになりました。もうこれ以上大きな出来事は私が伝えられる範囲で起こらないでしょう。
ゴー☆ジャスが死にました。今朝のことです。彼の最後の発言は珍しく長ったらしいコントを要するものでした。
「わー、ここは街で一番大きいデパート、今日は服を買いにきたの。あ、あそこにあるわ、女性用の服売り場か、婦人等、婦人等、無人島 そーれ ここ!!」と大きな身振りで地面を指したまま動かなくなりました。私は精神で人が死ぬのをはっきりみました。
最近はネガティブなギャグばかりいっていました、それでも芸人魂を忘れないのは殊勝なことですが、笑う人は誰もいません(もちろん彼自身を含めて)。彼は自分が焼いたことを忘れたのか、私ではなくインコに話しかけ続けていました。「アンジェリーナ、今日は久しぶりのロケなんだ」なんてぼやいていました、これがテレビのドッキリだったらどれだけの救いか!つい三日前には私がイースター島の呪いを唱えていたら彼は「救いがないでリアルに、ないでリアルに ナイジェリア!!」と叫び出しました。内容に反して異様に元気のある声でした。
実は一度だけイカダで抜け出そうとしたことがあります。素人二人で不細工に木をつなぎ合わせたそれはものの十メートルも進まないうちにしずみ、文字通り水泡に消えました。繰り返してトライする根気などありませんでした。
さて、ゴー☆ジャスを心のよりどころにしていたわけではないですが、私ももう死のうと思います。これは私と彼の遺書です。とは言っても遺言なんてありません。この生活以前にやっておきたかったことへの後悔なども忘れてしまいました。呪いはしません憎みはしません。今際にあっても残す言葉がないことについての虚しさはありますが、それを語る意味、そして術は持ちません。何を思い返しても今に至る必然がないのです。この手紙がもし届いても、私たちの生死を確かめる方法はあるのでしょうか。短い手紙になりました。しかし、さようなら。
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四つめのボトル

四月八日
訳がわからない、これは現実だろうか。私は手紙を書きます。ここに書くことは本当です。誰かの手に届きますように。
目が覚めると無人島にいました、ゴー☆ジャスと二人きりです。嘘ではないです、きっと小さなニュースになるんではないかと思います。
私の名前はーーです。ゴー☆ジャスといます、いたずらではありません、調べてください、きっとゴー☆ジャスが行方不明です。無人島にいます、助けてください。
幸いにも魚や果物などの食料はあります。しかしいつまで耐えられるか。大まかな場所もわかりません、四方海です。中に手紙の入ったボトルが四つありました、これが一つめです。一週間助けがないならまた出します。私は焦っています、しかし嘘ではありません、きっと捜索をしてください。